学科概要

学科長挨拶

東京大学医学部健康総合科学科は、健康に関する多様な学問的アプローチを包含して発展を続けている学科です。

時代と共に医学・医療技術や公衆衛生は進化し、日本は世界でも有数の長寿国になりました。その進歩とともに、人間の健康をどのように考えることが人々の幸福・ウェルビーングにつながるのかに関する考え方も、大きく変わりつつあります。健康はもはや、疾患と戦い勝利することで得られるものという単純な図式では語れなくなっています。

たとえば、以前であれば生命を直接脅かしていた深刻な病気に罹った後にも、上手に治療・管理すれば長く生きることが可能になってきました。大きな障がいがあっても、さまざまな医療的処置やケアサービスを受けながら人生を続けることもできるようになってきています。また、命をどこまでどのように永らえるのかといった、以前であれば人知の及ぶところではなかった事象に、近年は自らや周囲の人々の意志決定が大きな影響力を持つようになりました。さらに、交通機関や情報テクノロジーなどの発展により地球はどんどん小さくなっており、一つの国の健康を、閉じたシステムとして単純に検討することはもはや不可能になりました。

そのような医療やテクノロジーの進歩とともに、健康とは何か、医療・保健は何をなすべきか、という問いに対して必ずしも唯一絶対の正解を得ることは、現実的ではなくなってきています。複雑化した人々の健康事象に対して求められるのは、唯一の正解ではなく、事例や場に応じた最適解を導き出せる力でしょう。私たちは、そのような最適解に到達する方法を開発するために、多様かつイノベーティブな考え方で取り組んでいます。

健康総合科学科は教養学部の全科類からの学生を受け付けており、進学後は3つの専修に分かれます。いずれの専修も、人間の健康とは何か、それをいかに実現できるかを等しく追求しており、所属教員の研究は専修を超えて部分的にオーバーラップしています。しかし一方、これらの3専修は、人間の健康という大きな事象のどこにどのように焦点を当てるかに特徴的な違いがあり、学生はそれぞれの専門性を身につけることができます。

  • 環境生命科学専修は、生物としての人間(「ヒト」)に主に焦点をあてて、遺伝子・細胞レベルからヒトと環境との関わりといったレベルまでの健康について学びます。
  • 公共健康科学専修は、人間の集団性・社会性(「人」)に主に焦点をあてて、人々が社会システムの中で相互に関わり合いながらどのようにウェルビーングを追求できるかを学びます。
  • 看護科学専修は、思いを持ち日々を生きる人間(「ひと」)に主に焦点をあてて、ひとが疾患・障がい・加齢に伴う変化を経験しつつも自らの可能性を伸ばしながら健康に生きることに、直接触れて支えることを学びます。看護科学専修卒業生には、看護師国家試験の受験資格が与えられます。

学生はいずれかの専修に所属して学びますが、特に前半(2年次後期、3年次)は共通の必修科目が多く、それぞれの領域を単身で学ぶよりもはるかに重層的な健康に関する学びを得ることができます。当学科ほど、健康について多様性に富むアプローチを学べる学部・学科は、国内・国外を通じ他には見あたりません。

当学科の卒業生は多様な進路をとっています。どの卒業生も「健康」をキーワードにして広く社会をみつめる眼を獲得し、当学科での重層的な学びを意識的無意識的に使いながら活躍しています。これからの時代に求められる人材育成を意識した、有用かつユニークな学部教育を提供すべく、教員一同取り組んでおります。

健康総合科学科長
山本則子