教育・研究
生物統計学実習
授業概要
ランダム化比較試験(randomized controlled trials)は、医学研究の基礎的な学習を始めると必ず出てくる、最も大切な研究方法の一つです。多くの薬剤や治療法はランダム化比較試験を経て初めて世の中に出ることができ、科学的根拠に基づく医学の世界で「効果がある」と信じられることになります。この実習では自分たちが研究者かつ被験者となって、本格的なランダム化比較試験の枠組みで模擬臨床研究を行います。学生自らが本格的な研究デザインを立案するところから始め、研究の意義と倫理性に関する議論を行い、文献検索、研究実施計画書(プロトコル)・同意説明書の作成、同意取得(インフォームド・コンセント)、手順書(SOP)に基づく研究運営、データ取得、データ解析、成果発表会、総括報告書の作成にわたる臨床研究に必要な手順を、教員・大学院生の指導の下で系統的に学習します。
過去には、オルニチンを主成分とする健康食品(オルニチンカプセル)を使ったり、ビフィズス菌・カゼイ菌を含む某整腸剤を使ったりして、健康への影響を評価しました。これから皆さんが学ぶように、このような研究では比較対照(コントロール)が必要です。この実習では、現実の臨床試験で使うのと同じ質のプラセボ(オルニチンだけを含まないオルニチンカプセルそっくりのカプセルや、ビフィズス菌とカゼイ菌を含まない同じ味・食感の整腸剤もどき)をこれらのメーカーに作成してもらい、誰が試験食品を飲んで誰がプラセボを飲んでいるか、自分にも周りからも分からない(ダブル・ブラインド)ようにしてランダム化比較試験を行います。
一押しポイント
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実際に先生たちが大学病院・研究所等で参画している臨床試験のやり方に沿って、本格的なランダム化比較試験を立案、実施、解析、報告します。
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試験の実施主体も自分たち、被験者も自分たちです。試験の当事者として異なる視点を各自が持ちながら、研究計画と実施に必要な知識を学べます。
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SASという専用ソフトを使った統計解析が学べます。もちろん、統計学の基礎知識も教員・大学院生が丁寧に教えてくれます。
学生コメント
- 人数が少なかったとはいえ臨床研究の一部始終を体験することができてためになった。(男性)
- 私は統計の授業があまりよく理解できていなかったので実習がとても不安でしたが、実際に始まってみると、どの研究にも応用できそうな内容で、クラスで話し合うのも楽しく、とても有意義な時間が過ごせました。(女性)
- 2年の冬学期から受動的に学んでいた統計の知識をアウトプットすることで、理解が深まった。教員、学科の仲間とコミュニケーションをとりながら共通のものを作って行く中で自分にはない多くの発想や考え方に出会えた。(女性)
以上、2015年度3年生(コーヒー vs. カフェインレスコーヒー)
- 臨床試験の計画を立てることの困難さを身に沁みて感じました。変数定義書や割り付け法など、一見価値が低く見えるものでも、しっかり練らないと大きな支障になることが分かりました。(男性)
- 自分たちで話し合って決めたデザインで実際に試験を行い、結果を集計して報告書を作って、という一連の流れがどんどん形になっていくのが嬉しくて、検定などあまり理解できないままの知識もあったけれど、面白かったです。(女性)
- 今回の実習で一番難しかったのはエンドポイントを設定することだった。特に整腸作用のような定義しにくい効果を測る際には慎重な議論が必要で、こうした場合でも適切な評価をするために生物統計学を学んでおくことは重要だと思った(男性)
以上、2016年度3年生(ビフィズス菌・カゼイ菌を含む整腸剤 vs. プラセボ整腸剤)
コーヒー vs. カフェインレスコーヒー のランダム化比較試験
図1:CONSORTダイアグラム(ランダム化比較を報告する際に必要な試験対象者のデータ取得、統計解析に至る流れ図)
図2:カフェイン群(青実線)とカフェインレス群(赤点線)それぞれの計算負荷テストのスコア平均値の推移
いずれも実習内で作成した総括報告書より抜粋